散歩が好きだ。
ちょっと遠回りをしていつもは通らない道を歩いてみたり、降りたことのない駅で降りてみたり。目的地は決めず、スマートフォンの地図アプリも開かない。自分の感覚と好奇心を道しるべに歩を進める。
そうすると新たな発見があったりする。ふとした時に目に入った草木で季節の変わり目を感じたり、今まで知らなかった素敵な雰囲気のお店を見つけたり。
そんな「小さな非日常」に触れる瞬間が好きなのだ。
この前の休日、友達と会う予定が直前でキャンセルになった。どうやら急用ができたらしい。そういうこともあるよね。その日は買い物をして、気になっていた展覧会へ行くことにした。
コートを買って冬支度ができたし、展覧会も大満足。思いがけず一人で過ごすことになった休日を満喫だ。
目的は達成したけれど、まだ時間がある。天気が良いので、いつもは地下鉄に乗る区間を歩いてみることにした。
道沿いのお店を覗いたりしながら、ずいぶん歩いた気がする。そろそろどこかで一休みしようと思っていたところ、久屋大通駅から東に少し進んだところで「cafe one」というお店の看板が目に入った。矢印がビルの地下を指している。
手書きの文字とイラストが愛らしい。特に「デザート」でも「スイーツ」でもなく、「おやつ」という懐かしい響きに心惹かれた。時計に目を向けると、もうすぐ午後3時。そう、おやつの時間だ。そういえば、ちょっと甘いものが食べたい気がする。
「ダイエット中だけど、今日はけっこう歩いたからいいよね」と自分に言い聞かせながら、私は導かれるかのように地下へと続く階段を降りた。
地下一階のお店に一歩足を踏み入れると、そこには奥行きのある優しい雰囲気の空間が広がっていた。外からは全然分からなかったので驚いた。最近買った雑誌の特集になっていた「隠れ家カフェ」という言葉がぴったり。自分だけの秘密の場所を見つけたようでわくわくする。
知らない世界に迷い込んだかのようで、時間が止まったような感覚を覚えた。
どれくらい経っただろう。一瞬だったかもしれないし、数十秒経っていたかもしれない。店員さんがにこやかに「こちらで注文お伺いします」と声をかけてくれた。はっと我に返った。どうやら先にオーダーして商品を受け取るシステムらしい。
甘いものに目がない私は、メニューより先にいろいろな種類の焼き菓子やケーキが並ぶショーケースに目を向けた。これらは全て店内で手作りされており、季節ごとに限定商品も登場するのだとか。種類が豊富で目移りしてしまう。
マフィンも美味しそうだし、タルトやクッキーも気になる。季節限定スイーツにも惹かれる……。こういう時、優柔不断な私はなかなか決められない。
店員さんにおすすめを聞くと、「ラムレーズンとくるみのココアパウンドケーキ」（税抜380円）とのこと。
「じゃあ、それを一つお願いします」
ケーキ１つとドリンクのセットは760円（税抜）。ケーキを２つ、３つ付けられるセットもあったけれど、ダイエット中なので今日は１つで我慢。次に来る時の楽しみに取っておこう。
合わせて頼んだホットティーと共にケーキを受け取って、「おやつの時間」がスタート。
今回はケーキセットのドリンクからホットティーを選んだけれど、ドリンク単品のメニューも豊富。特に「cafe one」には世界大会に出場するほどのラテアートの技術を持った方がいるそうで、カウンターにはラテアート大会のトロフィーがたくさん並んでいた。今度はカフェラテを注文してみようかな。
「cafe one」とロゴの入ったかわいいホネ型クッキーを添えてもらった。濃厚ながらラムレーズンの優しい甘酸っぱさがアクセントとなったパウンドケーキを、クリームと一緒に口に運ぶ。
あ、今、幸せだ。
仕事は充実しているけれど忙しいし、休みの日も何かと予定を詰め込みがちな私。こんなにゆったりとした時間を過ごすのは久しぶりだ。たまにはこうして、一人の時間を満喫するのも悪くない。
ふと、飲食店を経営している叔父さんが以前言っていた言葉を思い出した。
「お店にとって店名はとても大切なもの。店の顔であり、想いを凝縮したものでもある。自分の子供に名前を付けるのと同じくらい、悩んで考え抜いて決められるものなんだ」
cafe oneの「one」はどういう意味なんだろう。店員さんに尋ねると、その答えを教えてくれた。
１人の時間も
２人の時間も
みんなの時間も
ステキな瞬間に変わる場所。
あなたの only one になりたい。
cafe oneの「one」は、「only one」の「one」だったんだ。なんて素敵なんだろう。
1人でも、2人でも、みんなでも。
それなら次は、今日会えなかった友達を誘って来ようかな。きっと彼女も気に入るに違いない。
居心地が良くて、知らず知らずのうちに長居してしまった。
秘密にしたいけれど、みんなに教えたくなる、そんな場所。店を出る頃には、cafe oneはその名前の意味の通り、私の「only one」になっていた。
店を後にして階段を上ると、外はすっかり暗くなっていた。日の短さが冬の訪れを告げる。
風は冷たいけれど、心はあたたかく満たされている。
cafe one
営業時間：11:00~22:00（日曜は17時閉店）
定休日：不定休
住所：愛知県名古屋市中区丸の内3-21-25清風ビル地下1階
※メニュー・営業時間などは公開時点での情報となります。最新の情報は各店舗のHPやSNSにてご確認ください。