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高架下に佇むお花のヒミツ基地『LYRICAL』で、わたしをもっと好きになる

高架下に佇むお花のヒミツ基地『LYRICAL』で、わたしをもっと好きになる

 

奥路地に佇む洋食店、老夫婦が営む小さなパン屋、休日だけ開店する雑貨屋——その土地に根付き、日々の暮らしにそっと灯りをともしてくれるようなお店が、名古屋にもたくさんあります。『あの娘とナゴヤ。』では、名古屋で暮らす女性が、何でもない日に出会う、とびっきり魅力的な場所を「ストーリー」とともにご紹介。あなたの毎日を照らす“ステキ”を、名古屋の街へ見つけに行きませんか?

昔から、信じやすい性格だった。

土曜日のJRゲートタワーにある本屋は、いつもより多くの人で賑わっている。雑誌コーナーに立ち寄り、何気なく手にした女性誌の占い特集。表紙から流し読みでページをめくり、自分の星座のコーナーで手を止めた。

星マークで表された5段階評価。仕事運は2つ、恋愛運に至っては1つしか光っていない。総合評価は、見るまでもなかった。

いつもはしない凡ミスの連発、何気ない一言から始まった彼との喧嘩——悪い運勢の知らせに、思い当たる節はいくらでもあった。スマホを確認しても、彼からの連絡はない。嫌気が差して、雑誌を閉じようとする。

その直前、解説欄に書かれた最後の一行が、ふと目に留まった。

『ラッキーアイテムは、ドライフラワー』

生花ですら滅多に飾らないわたしにとって、ドライフラワーは“未知”そのものだ。知識もなければ、ちゃんと触れたことすらない。ただ、憧れだけはある。

鞄からスマホを取り出し「名古屋駅 ドライフラワー」で検索をかけてみる。いくつか候補が表示されるなか、愛らしい名前のお店に惹かれた。

「なんて単純なんだろう」とあきれつつ、本屋を後にする。新たな目的地を目指し、名古屋駅の西口へと歩を進めた。

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名古屋駅から徒歩10分弱。新幹線の高架下にひっそりと佇むそのお店は、外観からすてきだった。窓から漏れ出づるオレンジ色のライトに誘われ、『LYRICAL(リリカル)』と書かれた看板を横目に、木目のドアをそっと開ける。

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店内に入り、瞬きを2回。

視界いっぱいに広がる色鮮やかな花々を前に、一瞬立ちすくしてしまう。たった1秒で、別世界に足を踏み入れた気分だった。駅の近くに、こんなお店があったなんて。子どもの頃、友達の「ヒミツ基地」に案内された、あの感覚にどこか似ている。

ドライフラワー初心者のわたしは、ゆっくりと店内を見回る。気になった商品を手に取ろうとすると、その繊細な見た目に、指先から力が抜けていくのが分かる。

割れ物を扱うかのごとく、そっと、慎重に眺めてみる。それを2、3回ほど繰り返したが、目の前にある花の名前も、その飾り方も何も分からない。

右往左往していると、それを察してか、女性の店員さんが話しかけてきてくれた。

「なにかお探しですか?」

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ラッキーアイテムを探しにきた、なんて言えるはずもない。

適当な言葉を見つけるのに少し時間はかかったが、自分がドライフラワー初心者であること、自宅に飾る花が欲しいが、何を買えばいいのか分からないことを打ち明けた。

よくある相談なのだろうか。

その店員さんは「それなら……」と慣れた様子で案内してくれる。

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彼女が手を差し伸べた先には、色とりどりのバラ。少しくすんだ色合いが、わたしの好みにぴったりだ。生花でも人気のバラは、ドライフラワーでも人気が高く、初心者でも手が出やすいと言う。

「あとは、スターチスも良いかもしれませんね」

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バラの近くにある、見た目の愛らしい小花。持ちがよく、乾燥させても色褪せないため、ドライフラワーとしても重宝される品種なんだとか。持続性があるため、ドライフラワーのお手入れに慣れていないうちでも、長く楽しめるのが嬉しい。

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夏の時期は、ひまわりもよく売れる。ドライフラワーのひまわりを見るのは初めてだったが、なるほど、黄色の美しさをそのままに、しっとりした見た目が独特の“味”を出している。好きな人は、夏に限らず、秋や冬でもひまわりを求めにお店へ足を運ぶほど。

お気に入りの花が、季節を選ばずに手に入る。その喜びは、ドライフラワーならではかもしれない。

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平日には、木箱に入ったお花から好きな10本を800円(税抜)で選べる「LYRICAL Marche」も開催しているそう。優柔不断なわたしにとっては、「好きなものをいくつでも」という選択肢があることがありがたい。今度来たときは、ぜひ試してみたい。

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あれこれ悩んだ挙句、かすみ草のブーケを買うことにした。花持ちが良いとされる黄色のクラスペディアが、なんとも愛らしい。シンプルな見た目で、飾る場所も選ばなそうだ。

「ここに来たの、初めてだったんです」

レジでお会計をしている際、そう話すと、店員さんは「そうなんですね」と笑いながら、お店のいろんなことを教えてくれた。

一つは、ここからほど近い場所に「LYRICAL」の本店として生花店「風遊花」があること。

本店が結婚式場の花飾りを多く請け負っていることから、そのノウハウを活かし、「LYRICAL」でも結婚式のブーケやヘアーオーナメントのオーダーを受け付けているそうだ。過去にはお店独自のブライダルフェアを開催し、ブーケや花飾りの展示販売を行ったこともあるという。

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二つ目は、ワークショップの開催だ。

フラワージャム、ハーバリウム、リース、レジンアクセサリーなど、月替わりでさまざまなワークショップしているそうだ。現在は、毎週土日の午前・午後の二部制。開催の予定は、公式Instagramから確認できる。

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「ワークショップには、カップルで参加されるお客様も多いんです」

そう言われ、ふと、喧嘩中の彼の顔が思い出された。

鞄からスマホを取り出すと、不在着信が1件。そういえば、ここ最近はデートらしいデートもしていない。今度、ワークショップに誘ってみるのもいいかもしれない。

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「ありがとうございました」

店員さんの言葉に小さく会釈をし、お店の外に出る。スマホで時間を確認すると、思ったよりも長い買い物になっていたことに気づく。だけど大丈夫、心は満たされている。

名古屋駅を目指し、歩き出す。彼に電話をかけながら、深呼吸を一つ。左手にぶら下げた袋から、遠慮がちにかすみ草の顔が覗く。

『ラッキーアイテムは、ドライフラワー』

3コール目の途中で、聴き慣れた声が耳を優しく包み込む。右手で掴んだスマホが、じんわりと熱を帯び始める。

昔から、信じやすい性格だった。どうしようもなく単純で、飽きれるほどに脆い。

だけど今ならば、そんな自分も、愛せそうな気がした。

 


ドライフラワー専門店 FUUYUUKA  LYRICAL
営業時間:10:00~17:00

定休日:火・水

URL:公式サイト

住所:名古屋市中村区亀島1-1-1 新名古屋センタービル浮島街139-140

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