「名古屋の人が名古屋を愛さないと。」街の仕掛け人に聞いた暮らしのヒント。間宮晨一千氏インタビュー

「名古屋の人が名古屋を愛さないと。」街の仕掛け人に聞いた暮らしのヒント。間宮晨一千氏インタビュー

名古屋を舞台にいくつものまちづくりプロジェクトを手がけてきた名古屋の影の仕掛け人である建築家・間宮晨一千さん。建築の設計はもちろん、なごや朝大学の運営や、高蔵寺ニュータウンのまちづくりなどさまざまなプロジェクトを手がける間宮さんに、現在のお仕事の話から、豊かに暮らす為のヒントを伺いました。

間宮晨一千(まみやしんいち)1975年8月愛知県生まれ。2003年東京都立大学大学院工学研究科建築学専攻修了。2006年に、株式会社間宮晨一千デザインスタジオを設立。建築デザイン分野では数多くの国際的な賞を受賞。現在は、愛知淑徳大学講師、なごや朝大学運営、高蔵寺ニュータウンの街づくりプロジェクトにも関わる。
 

150mに渡って描いたケンケンパが、街の雰囲気を変える

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「こうあるべき」を除きたい。

――本日はよろしくお願いします。間宮さんは建築家として活動される以外にもさまざまな活動をされているとお伺いしました。現在はどんなお仕事をされていらっしゃるのでしょうか?

間宮:まずはもちろん建築の仕事。住宅や店舗、医療施設などの設計です。それ以外に、愛知淑徳大学でゼミナールを受けもち、高蔵寺ニュータウンのまちづくりプロジェクトに関わったり、最近では、なごや朝大学の運営も行っています。
――過去にも様々なイベントを手掛けられていらっしゃるとか。

間宮:そうですね、デザインで名古屋を盛り上げようという主旨のイベントの『NAGOYA DESIGN WEEK 2009』で実行委員をさせていただいたこともあります。その時は、街の歩道に150mにわたってケンケンパの絵を描きました。

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――150mは、かなりの長さですね。どのようなきっかけでケンケンパを作られたのでしょうか?

間宮:”こうあるべき”を除きたいという思いがありました。たとえば、ケンケンパの場合、一般的には歩道は遊ぶ場所じゃないので、150メートルも絵を描くのはダメな行為です。

でも、一般的な”こうあるべき”は時にすごく息苦しさを感じることがある。せっかくみんなで使っている歩道なんだから、子供が遊びながら帰れてもいいのではないかと考えました。そういった遊びの要素が少しあるだけでも街の雰囲気は変わっていくんです。
――実際、街の方の反応はいかがでしたか?

ケンケンパは地域の方にも好評で。デザインウィーク終了後にケンケンパを消していると、地域の方に「消さなくていいのに」と声をかけてもらえたくらいです。
 

循環する時間の感覚を取り戻す高蔵寺ニュータウン

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直線的な時間の感覚を循環的に変えて、時を積み重ねていく

――高蔵寺ニュータウンのまちづくりプロジェクトはどのようなものなのでしょうか?

間宮:廃校になった小学校の再活用計画です。藤山台地区では2校あった小学校が1校へ新築し統合されました。そこで生まれた空の小学校2校をリノベーションして再活用するというプロジェクトです。ひとつは市民サービス施設へコンバージョンし、もうひとつは高蔵寺に遊びに来られる方に向けた施設になる予定で、僕は、後者のほうを担当しています。
――市民サービスというと図書館などイメージが沸くのですが、外から来る方に向けた施設とは、どんなものになるのでしょうか?

間宮:ライフスタイルを提案する施設、もっと言うと、「循環する時間の感覚を体験できる場所」になれないかと考えています。
――循環する時間の感覚…とは?

間宮:いま人々は時間を循環するものではなく、直線的に進むものとして捉えています。たとえばカレンダーを例に考えてみましょう。いまの一般的なカレンダーは、時間を消費していってる感覚がある。日めくりカレンダーがわかりやすい例かもしれません。常に「前に進みなさい」と言われているような感覚です。常に時間に追い立てられるこの感覚は、どんどん日々を息苦しいものにしているのではないかと考えたんです。
――たしかに。直線的に時間を捉えることが、常に後ろから追いかけられている認識につながっているような気もします。

間宮:そうではなく、時は巡り積み重ねていくものと考えることができないか。これが「循環する時間の感覚」です。高蔵寺ニュータウンを舞台にしたドキュメンタリー映画『人生フルーツ』に出てくる津端夫婦の暮らし方は、とても循環的で参考になるのかなと思います。

津端夫婦は高蔵寺ニュータウンの造成地を購入し、木造平屋と大きな畑を作り、彼らのリズムで暮らしをつくってます。それは忙しさに追われて時間を消費していくのではなく、時が経ち年齢を重ねるごとに豊かになっていくライフスタイルです。
――なるほど。想像するだけで気持ちがゆったりしますね。具体的にはどんな仕掛けをつくるんでしょうか?

間宮:空間的には、大きな床面の中心に太陽を描き、地球や他の惑星が動いてる様子が見える仕掛けをつくります。合わせて惑星の動きとともに音がする仕組みにもしようと考えてます。太陽系の惑星の動きはとても正確に時を刻んでいる大きな時計なんですよ。最終的にはアートや、インスタレーションに近いものになり、その作品を通じて、これからのライフスタイルを伝えていければと考えています。
――それを廃校となった学校でやるというのも、なにか深い意義を感じますね。できあがるのが楽しみです。
 

地域の困りごとを解決する場『なごや朝大学』

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名古屋の魅力的なヒト・コト・モノを応援する

――なごや朝大学はどのような場なのでしょうか?

間宮:なごや朝大学は、もともと東京の丸の内で開講されていた『丸の内朝大学』の名古屋版として4年前からスタートしました。朝の時間を有効に使うことで大人たちが普段とはちょっと違う活動をしましょう。というものですね。わたしは、なごや朝大学を地域の困りごとを解決する場にしたい考えています。みんなで名古屋の魅力的なヒト・コト・モノを知って、応援するという感じですね。
――実際にどのような講座が開講されているのでしょうか?

間宮:たとえば日本酒クラスでは、ナゴヤクラウドという名古屋の4つの酒蔵のPR方法を考えたりしています。名古屋の人はなぜか地元のお酒を飲まないんですね。新潟の人は新潟のお酒を飲みますし、京都の人も京都のお酒を自慢して飲むのに。
――言われてみるとそうですね。なぜ名古屋では地元のお酒を飲まないんでしょう?

間宮:名古屋の人は名古屋に素晴らしいお酒があることを知らないんです。そこで、朝大学でクラスを作り、地元のお酒をPRする方法を考えることにしたんです。このクラスから『パリ蔵』というイベントが生まれ、今では200人以上を集客する大人気イベントになってます。
 

間宮さんが伝えたい「目の前にあるもの」を大事にすること

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自分達が大事にしてきたものがなにかを知りたい

――ここまで、高蔵寺のプロジェクトから朝大学など、さまざまなプロジェクトをご紹介いただきました。間宮さんの中で、これらのプロジェクトを通して実現したいものは何なのでしょうか?

間宮:僕は「自分達が大事にしてきたものがなんなのかを知りたい」という思いがあります。「僕たちは何に心を惹かれているのか」「日本人ががいいと思えるものは何か」といった大切な価値観を言語化していきたい。海外と比べて習俗や宗教といった拠り所となるものが少ないことも影響していると思いますが、日本では言語化する機会がない。
――確かに、何を大事にしているかを考える機会がそもそも少ないかもしれません。

間宮:自分たちが「大事にしてきたもの」を見失っているから、自分たちのことも、自分たちが住んでいる場所も愛することができない。極端な話、だから年間3万人近くもの自殺者が出てしまう。経済的な意味では豊かなはずなのに…です。
――物質的には豊かだけれど…という話をよく耳にしますね。

間宮:そう、よく言われるとおり物質的には豊かでも精神的に乏しい。とはいえ、何を切り口にこの問題を解決すればいいのか誰もわからない。だからこそ、その時々に見つけた「大事なこと」を捕まえて形にしていく。そういったことが、高蔵寺や朝大学でできたらいいなと思っています。

自分たちのことを自分たちで愛せないとダメなんだと思います。名古屋に関していえば、名古屋の人が名古屋のことを愛さないと。なごや朝大学の活動をしていると、自分たちを愛することの豊かさを学びます。名古屋の人って「他に行かないと良いものが手に入らない」と思いがちですが、知らないだけで名古屋にも素敵なものはたくさんあります。普段の暮らしの大半は地元にいるわけですから、地元が素敵な場所だと知っているほうが日々をもっと楽しめるはずですよ。

――間宮さん、貴重なお時間をありがとうございました。
間宮さんが終始語っていたのは、新しいものを作ることではなく、もともとあるものをきちんと知って、大切にすることでした。日々の暮らしの中でついつい目新しいものばかりを求めてしまいがちですが、手元にあるものに気づいて、大事にしていくことの大切さに気づかされたインタビューでした。

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