去年4月に改装しリニューアルオープンした、円頓寺の「喫茶、食堂、民宿。西アサヒ(2018年4月に「なごのや」に屋号変更)」。電源やWi-fiを使用できるカフェとして、ノマドワーカーのような新たな働き方を可能にする場所となっています。
名古屋エリアの文化的拠点として、国内外から多くの人が集まり、観光客からはもちろん、地元の人々からも愛される「西アサヒ」を運営しているのは、「株式会社ツーリズムデザイナーズ」代表取締役の田尾大介さん。
オープンから現在までをどのように振り返り、1周年を控え、今後はどのような展開を考えているのか、お話を伺いました。
目次
名古屋の歴史ある町並みに暮らすように滞在する

「株式会社ツーリズムデザイナーズ」代表取締役田尾大介さん
――オープンから現在までを振り返ってみてどうですか?
田尾さん:「地域のじいちゃんばあちゃんと若いスタッフが仲良くなって喋っていたり、海外から来た人と地元の人たちが同じ場で同居していたり、『こんな場を作りたい』と想定していた場が出来ています。
僕は『株式会社ツーリズムデザイナーズ』で、代表取締役として旅行業も行っているのですが、そちらでは地域に来た旅行者向けのプログラムに人員を増やして、本格化したところです。
地域に来た人が、いろんな人や文化と繋がって、楽しくなっていくことで、地域や商店街も活性化する。そんな循環が上手く回るような仕組み作りを1歩1歩やっています。」
―そういったことが出来る町の特性もあるのでしょうか?
田尾さん:「東京や京都といった観光地とは異なる、日本そのままの生活・文化に触れるのが好きな人に対して、何かをしたいという僕たちにぴったりな場所ですし、円頓寺商店街の方々も、ウェルカムな雰囲気で迎えてくれました。
高層ビルの立ち並ぶ名古屋駅から歩いてたどり着ける円頓寺商店街で、蔵や歴史ある町並みのなかで暮らすように滞在してもらって、日本の文化に興味を持って楽しんでもらえたらいいなと。」
―円頓寺商店街は、東京・京都を通して日本を知った旅行者が、もっと日本について知りたいと思ったときに、日本の暮らしを楽しむ場所として最適なんですね。
田尾さん:「僕は、飲食業やゲストハウス、コンサル、旅行会社、まちづくりなど、さまざまなことを行っていますが、実は全てが繋がっていて。人と文化が触れ合って生まれる幸せな空間を増やすために、必要なことを毎日やっているという気がしますね。
海外から日本を訪れる観光客のほとんどは、東京・京都を体験したいだろうし、ディズニーランドも行きたいと思う。有名な所を抑えずに、マイナーな所へはなかなか行かない。
もし『日本をもうちょっと深く知りたい』、『日本人ってどんな生活をしているんだろう』と興味を持った人が、ニーズを満たす容易な拠点として『西アサヒ』が機能し、笑顔になる人がたくさん増えればいいですね。」
「ありのままが珍しい」を勘違いしてはいけない
―「人と文化の繋がり」が、田尾さんの行う活動のキーワードになっているように思うのですが、田尾さん自身が海外を訪れるなかでその重要性に気づいたのでしょうか。
田尾さん:「もともと旅行会社で働いていた関係でいろんな国を訪れていたのですが、一番大きかった経験は社会人3年目にありました。
国際会議を受け入れる仕事を担当するなかで、海外の人を日本の観光地に連れて行ったり、日帰りや2泊3日でツアーを行ったりしたんですが、僕たちにとってはあまり珍しく感じない普通のお寺や道路、食べ物を喜んでくれて、もっとこういうものを体験してほしいなと。」
―僕たちが普段当たり前のように行っている日常の生活は、相手にとっての非日常であり、楽しんでもらえるコンテンツになると。
田尾さん:「ドン・キホーテやイオンのような大型チェーンに連れていく必要はなく、円頓寺商店街であれば、小道具さんや煎餅屋さんのような地域に根付く暮らしを体験してもらうことが出来る。
ただ、日本の当たり前、日本のありのままを見せるということが、本当のおもてなしというわけでもないと思っています。自分たちにとっては当たり前だとしても、相手にとっては珍しく、非日常なものを見つけて提供することが大切です。
『ありのままが珍しい』というのは勘違いしてはいけなくて、あくまで面白いものを提供しなければいけないことは変わらない。僕たちがどうこうは関係なく、「珍しさ」をとことん突き詰めることは意識してやっていますね。
何が珍しく、何が珍しくないのかきちんと見極める力が大事だと思います。」
名古屋に1泊する間にどれだけ楽しませられるか
―名古屋は、外国人の通過点になってしまい、もっと魅力を知ってほしいという地域の人たちのお話をよく聞きます。ですが、日本各地の魅力を知るきっかけになるのであれば、通過点で良いのではないかという意見も聞かれます。田尾さんは、この問題をどう捉えていますか?
田尾さん:「よく議論になる問題ですが、山口県出身の僕からすれば、東京と京都の間に新幹線が停まる駅があって、通過してもらえるだけ良いなと思うんですよ。
今は、高山や京都に行く間の1泊する場所として名古屋に滞在する人がほとんどですが、その1泊の間に相手を喜ばせることが出来れば、次は長く居てくれるしょうし、友達にもおススメしてくれる。
観光産業を盛り上げていくという意味では、滞在する目的を増やして、訪れた人に食や遊びを通して楽しんでもらうところは、名古屋の立地・都市規模だったらもっとあるべきで、ちょうど近くにナゴヤ歌舞伎を楽しめるエンターテイメントな場も出来ますし、僕たちとしてもどんどん仕掛けていこうと思っています。」
―観光客が名古屋を楽しめる機会づくりをどんどん行っていくということですね。
田尾さん:「それがこの宿にもつながるし、ツアーにも繋がる。面白いモノを作れば来てくれるし、面白いものがなければ来ない。
名古屋を通過したくてしているわけではなく、一生に何回も行けるわけではない日本の旅を一番良いモノにしようと、リサーチをするなかで名古屋が選ばれていないだけで、それは仕掛けていない自分たちが悪い。
名古屋の宿泊者数は、ビジネスも含めれば高山の2倍いるんですよね。実際来ているんだし、その人たちに何か提供してあげればいいじゃんと。目の前の人に尽くした結果が、想いもよらない形で、違う人に伝わって返ってくると思うんです。
『西アサヒ(現在の「なごのや」)』も、4月にオープンして、そのきっかけづくりと種まきをずっと行ってきましたが、いつまでも目の前の人の満足を満たすためにやり続けるしかないのかなと。」
交流を生み出す攻める仕掛けに力を注ぐ
―「西アサヒ(現在の「なごのや」)」も、数か月でリニューアルしてから1周年を迎えます。何か次のアクションとして構想されていることはありますか?
田尾さん:「現在、名古屋おもてなし武将隊の家康様に協力してもらって、一緒に手羽先を開発しています。
家康様は、食への造詣が深く、英語を話すことも出来るので、『西アサヒ』を訪れた人が手羽先の食べ方を武将に習う様子を動画に収めて、動画サイトにアップすれば、その動画を使って、訪れた観光客と店員が交流したり、地元の人が食べ方を教えたりできる。
『西アサヒ』に宿泊する人たちが、名古屋ならではの食べ物を食べたいと言ったときに、手羽先を望まれる方が多いんですが、『西アサヒ』にも、円頓寺商店街にも食べられるスポットがなくて、名駅3丁目まで行ってもらうしかなかったんですよね。
だったら、ここで出そうと。そして、出すのであれば『あの新しい名古屋飯良いよね』と名古屋の人に言ってもらえるようにこだわって作ろうとやっています。」
―手羽先をコミュニケーションツールにさまざまな交流の場面が生まれそうですね。
田尾さん:「一方で旅行業の方では、現在この地域の文化体験プログラムを150ほど作成中です。
『西アサヒ』に限らず、名古屋エリアの各地が日本を訪れる人の目に留まって名古屋に来てもらって、名古屋の滞在をもっと面白いものにしてほしい。
去年までは、『西アサヒ』という場を作り上げて回すので精一杯でしたが、今年は攻める仕掛けも出来てきたので、形作りから、歯車を回すことに力を注いでいきたいと思っています。」
喫茶、食堂、民宿。なごのや
営業時間:11:30〜23:00
定休日:月曜日
名古屋市西区那古野1-6-13